今回のインタビューは、悪女の枕芸者しとさん!

地下オカマアイドルという看板を背負って、派手なドレスに身を包み、下ネタを交えながらフロアを巻き込んで盛り上げるライブパフォーマンスが特徴的。
ちなみにそれそれー!がキャッチフレーズ。一度聞くとつい使いたくなってしまう便利さがあります。笑

そんな悪女、関西を中心に活動中ですが、東京遠征のタイミングでお話を伺うことが出来ました。
二度目のインタビューとなる今回は、救済がテーマのセカンド”チン”グル「最後の天使/エキセントリック微少女」発売にあたってのお話。

シンガーソングライターとしての一面も持ち、悪女の楽曲を作詞作曲ともに手がけているしとさん。
セルフプロデュースだからこそのブランディングと、それも踏まえて自分自身の表現したいことに改めて向き合った、悪女ならではのポップさとパーソナルな部分のシリアスさが合わさった作品になっております。



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悪女(枕芸者しとのソロプロジェクト)

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―― 前回のインタビューから一年半ほど経ちましたが、この間で悪女としての変化はどういったものがありました?


枕芸者しと(以下、しと) まだ相方がいた頃でしたよね。

(編集注::前回のインタビュー当時は、クリエ・インターナショナルとの二人組ユニットだった。現在クリエさんは消息不明……)

前回のインタビューの頃はまだ始めたばかりという感覚が強くあったんですけど、あれから二年経ち、今ではすこし焦りも感じつつ……。
でもしたいことが出来る環境を少しずつ作れている今が頑張り時かなって思っています。


―― 楽曲提供もしていたり。


しと 職業作曲家ではないので、なんでもかんでも受けている訳ではないのですが(笑)。

最近は親交のあるアイドルちゃんにお願いされたり、私の楽曲を聴いて下さった運営の方にお声掛け頂く機会が増えてきましたね。

楽曲提供をする際はオーダーメイドを心掛けていて、提供先の歌い手さんにしか表現できない楽曲を愛情を持ってお書きしています。


―― 少しだけ話が逸れてしまいますが、悪女とは別の活動として、アイドルユニットを新しく組んだんですよね。


しと “ハニートラップ”という性統派お色気アイドルユニットを、ソロアイドルとしても活動中のさおりん(織部さおり)と結成しました。このさおりんにも「PiNK(A)ST@R」という楽曲を提供をしましたね。

さおりんとの出会いは、元メンバーのクリエさんと二人でベッド・インさんのインストアライブに押しかけたことがきっかけなんです。


―― 押しかけた?


しと あ、ちゃんとCDを買ってお客さんとして行きましたよ。笑

以前からベッド・インさんが大好きで、流れてくるツイートを無作為にいいねしていたら、「悪女って何者……?」と生徒諸クン(ベッド・インファンの名称)のタイムラインがざわついていたらしくて。笑

そんな中での参戦で、たくさん声を掛けて頂いたのですが、その時にたまたま隣に座っていた女の子がまだアイドルになる前のさおりんだったんです。悪女のツイッターを見てくれていたようで、それからもずっと悪女を応援してくれていて。


―― ええ、すごい!そんな出会いがあるんですね。


しと “スナック悪女”というオフ会イベントにも遊びにきてくれて、その時により一層仲良くなれた気がします。

元々ベッド・インさんをきっかけに知り合ったことだし、色っぽい世界観のユニットをやってみたくて、ちょうど今ハニートラップのオリジナル曲も作っているところなんです。

さおりんはダンス経験もあり、振り付けも考えてくれるので、楽曲も振り付けも含めて、すべてセルフプロデュースなんです。


―― 悪女としてのオリジナル曲も増えてきましたよね。
ステージングとかパフォーマンスの面での変化はありました?


しと 最初の頃は本当に自分本位なライブをしていたな…と思っていて。笑
あまり周りが見えずに「どうしたら盛り上がるのだろう?」とがむしゃらにやって「盛り上がりなさいよ!」「なんで盛り上がらないのよ!」みたいな。笑

相方が飛んでから一人で活動してきた約一年くらいの期間を自分では“ご乱心の時代”と呼んでいます。笑
でも最近はどうしたら人が見てくれるのかがある程度分かってきて、純粋にライブが楽しいです。


―― 一人でやっていると、自分が演者でもありながらプロデューサーとしての顔を持たないとですよね。


しと 本当はプロデュース業の方が好きなんですよね、ステージに立つことよりも。

だからアイドルに楽曲提供をする時も、“この子にはこんな曲を歌わせたら面白いかな?”なんて考えたり、出来る限りレコーディングまで携わってディレクションをしています。
この子にはこんな曲を書いて、どんな声色で録音をして……とか、そういう作業を考える方が楽しいんです。笑


―― プロデューサーとしての眼で見ると、悪女ってどういった存在なんでしょう?


しと 一人になってからずっと悩んでるのは、悪女のパブリックイメージについてで。

オカマキャラでテンション高く下ネタを言って盛り上げるようなパフォーマンスを求められていると思うんですけど、それとは別でシンガーソングライターとして自分自身の内側にある暗い部分を表現したい気持ちもあって、そのバランス感覚をどう出していくかというか。

自分が表現したいものと求められているものとのバランスがすごく難しいです。



~今度はあなたが自己紹介をする番よ~


―― 今回音源をいただいたシングル……あっ、"チン"グルでした。笑
自分の中の陰口というかダークな部分が、悪女っていうフィルターを通してポップになって出てきた感じがするんです。やはりそれもそのバランスのせめぎ合いから生まれたものなのかなって。


しと ファースト・チングルでは、「私(悪女)はこういう者です、こういうパフォーマンスをします」という名刺代わりの、自己紹介のような作品を、というコンセプトで制作したのですが、次に出す作品では「じゃああなたはどんな人なの?今度はあなたが自己紹介をする番よ」と音源を聴いてくれている人や応援してくれている人に問いかけるような作品を作りたくて。

常々、人を救いたいだとか肯定したいだとかいうことを想いながら作品づくりをしているのですが、私だって毎日辛いことやしんどいこともあるし、傷付くこともたくさんある中で、「あなたを救います!」とか「肯定します!」なんておこがましいなって思っちゃって。
だったらまずは自分自身が救われたり肯定されるようなものを作ろうと。
自分が救われたポイントと同じところで、同じ感覚を持った人がたまたまその落とし穴に落ちてくれたらラッキーだなって。笑

まずは自分自身を救う。それで間接的にでも後付けでもいいからどこかの誰かが救われた気持ちになってくれたら嬉しいな…という願いを込めて制作しました。

前作では、悪女のイメージである「それそれー!」と楽しく盛り上がるようなものを、と制作したのですが、今作では自分自身の内面や暗さみたいな部分もスパイスとして入れてみました。

下ネタやオモシロ要素を扱うことによって、遊びでやってる人だとか、ただふざけてるだけの人のように見られることが時々あって……。


―― なるほど、ミュージシャンというよりも芸人的な。


しと それはそれですごくありがたいし、面白いと思ってくれることはすごい嬉しいし本望なんですけど、自分で曲を作ってパフォーマンスしてるのに…という悔しさもちょっとだけあって。

だから今作ではより音楽的に……というかシンプルに良い曲だと思って頂けるものを作りたくて意識しました。


―― 悪女っていうフィルターを通してと先ほど申し上げましたけれど、歌詞を見ると今度の楽曲はシンガーソングライターとしてのダークさがちゃんと入ってる感じがします。


しと 私も一応セクシャルマイノリティという枠組みの中で生きている人間の一人として、オカマを前面に押し出して活動している者として、ジェンダーで悩んでいる人にも届いたらいいなと願いながら言葉を選びましたね。


―― なんというか、なめられなくなりそうな感じがしました。
"オカマ(笑)"みたいなイメージがどうしても付き物だと思うんですけど、歌ってることはシリアスで。それでも曲は楽しいっていうバランスがすごく良いと思うんですよね。


しと なめるのは好きだけど、なめられるのはどうも性に合わないのよ。笑

大森靖子ちゃんのファンであることも私の中で大きなアイデンティティの一つなんです。今回のように東京遠征した時は、靖子ちゃん繋がりで仲良くなった女の子がライブに遊びにきてくれたりして。とても嬉しいんです。


―― たしかにそこかしこからリスペクトというか、オマージュは感じます。


しと オマージュは大いにあります。特に今回のチングルは意識して制作しました。
逆に聞きたいんですけど、歌詞を読んで頂いてどう感じましたか?


―― 「最後の天使」という楽曲は、さっきのお話とも繋がるんですけど、"君こそが天使"っていう最後の一節を見て、あっ肯定する人になってる!って思ったんですよね。

それって先程の誰かを肯定したいっていう気持ちが結局表れているような気もしながら、さらにこれをご自身でも歌ってるうちに自分自身も肯定されていくような感覚になっていくのかなって。


しと “救済”、そして一度死んで生まれ変わる…“再生”がテーマなんです。要は飛び降り自殺の曲なんですけど、本当に自殺をする訳ではなくて、擬似的に自殺という言葉を使っています。


見えない翼を過信して ビルの窓から飛び降りたって
空は飛べないし 落ちたら死ぬし なにより痛いよ 痛いよ

それでも生きた心地がして 抜け出せない絶望抱き締めて
地下一階の闇を斃そう!最初からエゴってたよねw


―― 一回死んだことにしてっていう感覚って結局ポジティブですよね。


しと そうなんです。(大森)靖子ちゃんだったら「流星ヘブン」の、
”a. アカウントを消して 仮想的に自殺する“
とか、ちょっと近いニュアンスで。

そういえば、すっかり忘れられているかもしれないんですけど、悪女のコンセプトに“前科持ちのオカマ”というものがありまして。笑
悪女として発表する楽曲にはそれぞれに罪の香りを漂わせていたいんです。

今作では、イエス・キリストが人類を罪から救うため身代わりとなり十字架の上で刑死し、その三日後に宣言通り肉体的な復活を遂げた、というエピソードからも着想を得ています。



~もしこのお店のテーマソングを作ったら?~


―― そういったテーマって書くときに浮かぶんですか?どういうきっかけで全部が構成されていくのかなって。


しと 曲先とか詞先とかあるじゃないですか。私はタイトル先なんです。タイトルにした言葉って自分のものになるような気がしていて、所有出来たような感覚になるんです。

例えばファーストチングルの”ミラーボール”というモチーフも、実物としてはもちろん、言葉自体もキラキラして可愛いな…と思って、「今夜はミラーボール」というタイトルを付けたら自分に所有権みたいなものが生まれた気がして、歌詞を書けるようになるんです。

だからタイトルさえ決まれば、だいたいどんな曲になるのかはイメージが出来ます。


―― タイトルが浮かんだ段階で、ある程度こういうアレンジでこういう雰囲気の曲になるだろうなという。


しと そうです。そのイメージに合わせて肉付けしていく感じです。書きながらこういうテーマを加えてみようとか、後から点と点が繋がっていく感じもありますね。

「最後の天使」は元メンバーと出会ったオカマバーで働いているときに書いた曲で、地下一階にあるお店だったんですけど、もしこのお店のテーマソングを作ったらどうなるのかな?と思って作った曲なんです。
そのお店でいろんなことを教えてくれたとても尊敬する先輩がいて、その人に向けた感謝のメッセージなども散りばめていたり。

生きたみくれた貴方まで どうして居なくなっちゃうの?
Thank you! 場面が愛の対価ね

でも作ったきっかけとは別に、もっといろんな聴き方で聴いてほしいですね。


―― こうやって聞くと具体性がありますけど、聴いたその人なりの響きかたはありそうですよね。


しと 私も今歌詞を読み返したらまた違った捉え方ができるし、面白い曲ですよね。
そのお店で元メンバーと出会ったことが悪女の原点だから、どうしても悪女として歌っておきたい1曲だったんです。


―― このセカンド・チングルにはもう一曲収録されるんですよね。


しと 「エキセントリック微少女」という曲なんですけど、これも比較的前からあった曲で。これは女子の悪口から始まる曲です。

中学生の頃、美術部に所属していたんですけど、部活内で一人の女の子が「私、黒目と白目の比率が黄金比やねん」と言って、それから無視をされたり悪口を言われるようになっちゃって。その光景の中で、「そんな悪口より絵描いたら?」というメッセージを曲に落とし込みたくて。

黄金比なんてどーでもいい
それより絵を描きましょうよ
髪の長さはココロの黒さよ
ウチらずっといっしょやもんねっ!女の子


―― なるほど。その一方で、そんな悪口を言う側の視点も盛り込まれてますよね。


しと やっぱり悪女というアーティスト名で活動しているので、そこは。笑 今回はシンプルに悪い女の子を描きました。

チャイムが鳴ったら行きましょう
いっしょにトイレに行きましょう
その場にいないあの子の悪口 吐き捨てるように言いましょう


―― タイトルも気になって。”微"少女なんですよね。


しと 深い意味はないんですけど、言葉遊びみたいなもので。後付けですけど、オカマですし純粋に女の子という訳ではないので、"微"少女くらいがちょうど良いのかなと。笑


―― うんうん。その一文字に、なりたさとなれなさがぎゅっと詰まってる感じがして。


しと 私らしいかなと思っています。

この曲は私の先輩でありお友達の笑女歌劇団 ヒミツノミヤコのVo.ぼけちゃんとシンガーソングライターのぽてさらちゃん。という大好きなお二人にお声を拝借して。
演じることがお上手な二人だから、今回は悪口を言う女の子を演じて頂いて、アウトロでは無茶振りをして即興でいろいろ喋って頂きました。笑
二人に参加して頂いたことによって、より一層味が出たな…と感謝しています。


―― そうですね。世界観がよりリアルになったような。急に耳元で女子グループが出来たような感覚があって。笑


しと そうなんですよ。悪口だから私よりも他の子が言っていた方が面白いですよね。


―― アレンジに関しては、今回はどういった注文だったんですか?


しと 頭の中のイメージを人に伝えるのがとても苦手で、言葉のニュアンスになってしまうんですけど、どうしても伝わり切らなかったりすることが多くて。アレンジしてもらう時はいつもそれが苦しいんですよ。その分完成した時には最高な出来なんですけどね。

でも「エキセントリック微少女」はスムーズにやりとりが出来ました。弾き語りでデモテープを送るのですが、その段階でイメージを掴んで下さったみたいで。


―― 二曲それぞれのギャップがあって、聞き応えありそうですね。


しと 前回のチングルともまた違う雰囲気ですよね。

ゆくゆくはアルバムを作ろうと思っているんですけど、アルバムの曲も全部違うジャンルというか違ったアプローチで入れたいと思っていて。
地下オカマアイドル  悪女は音楽のジャンルを決めて活動している訳じゃないので、せっかくならいろんなことを貪欲に挑戦したいと思っています。


―― 面白そう!せっかくのセルフプロデュースですからね、興味の赴くままにチャレンジすることで幅も広がってきそうですし。


しと そうですね、まだ大人もついていないから好きにやりますよ。笑 それそれー!




インタビューは以上です!
二度目のインタビューでしたが、シンガーソングライターとしての自分を出しつつ、悪女の色に染めていくようなバランス感へ向き合うことによって、また新たな飛躍を遂げつつあるような印象でした。
悪女というブランディングも確立しながら、メッセージをどう込めていくか。これまでの悪女とはまた異なったステージも見られそう。


最後に音源の詳細とそのリリースパーティーのお知らせを下に載せておきます!
関西近郊の方はぜひチェックを!東京の方は東京遠征のタイミングもちらほら行っているようなので、Twitter等で情報をキャッチしていただければ!



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悪女「最後の天使/エキセントリック微少女 feat.ぼけちゃん,ぽてさらちゃん。」
発売日:2019年11月14日
価格:天使盤 1000円、大天使盤 1500円(どちらも税込価格)
収録曲
1.最後の天使
2.エキセントリック微少女 feat.ぼけちゃん,ぽてさらちゃん。
(ライブ会場で直接お求めください!)



地下オカマアイドル悪女 presents
悪女会 Vol.2 ~まだ天使になれない僕たちは~

2019年11月14日 Loft PlusOne west
開場 18:00 開演 19:00
前売 2000円 当日 2500円

出演
悪女
Emi-chan
男塾。
織部さおり
サイツアキノリ(君がそうなら僕はこう)
ぽてさらちゃん。
万次郎
ハニートラップ (O.A)