タイトルが長い!
あの有名なセリフをイベント名に用いたのは、前衛的アート集団Chim↑Pom。
取り壊しが決定している歌舞伎町の廃墟ビルを占拠して行う展示会のタイトルである。

展示期間の終了とともに、ビルは展示作品ごと取り壊され、その残骸を再構築して再び展示会を開くという。
東京オリンピックに向けてスクラップ&ビルドが声高に叫ばれる中、それをそのまんま皮肉ったテーマ。

この展示会のオープニングパーティということで、オールナイトイベントが組まれた。
先にタイムテーブルを載せておこう。


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なんだこのメンツ。どういうことだ。
というわけで好奇心と恐怖心を天秤にかけながら、新宿の深夜を過ごしてきた。



廃ビルの名の通り朽ち果てた階段を下った先には、簡素な明かりと即席のドリンクカウンターのみの地下室があった。100人くらいは入っていただろうか、そのくらいの人数ですでに会場はごった返していた。

前方のステージ(と言っても段差もなく機材がいくつかとマイクスタンドが立っているだけ)で話しているのは、現代美術家の会田誠
こういったライブイベントに出演すること自体が異色な彼だけれど、Chim↑Pomの繋がりとなれば頷ける人選。
事前の告知ではカラオケDJという謎の演目。

中島みゆきや渡辺真知子をかけながら、彼のオススメポイントを熱心に語る。
カラオケのように自分も歌いながらも、良いと思う歌詞の手前で「ここ、ここ聴いて!」とか「ここが良いんだよ…」とコメントを挟んでいく。
もうすでに酔っ払っているようで、その様子は居酒屋のBGMで流れてくる思い出の曲を聴いたおっちゃんとそっくりだ。
でもそれはこのブログを始める前に僕がやりたかったことにそっくりだった。実際に楽曲を聴きながらリアルタイムでレコメンドしていくやつ。
いつかYouTubeでやってみたい。けど、著作権的にアレだよね…。


続けざまに登場したのは黒パイプというユニット。
セクシーなおねえさまがドリンクカウンターの上に寝そべって、性行為のススメを身振りを交えて話す。
若い女の子がなんとも言えない笑顔で見ている。俺もそれを見てなんとも言えない。

と、その間にバンド隊が準備をしている。
おねえさまのエクスタシーと比例するようにサウンドチェックが盛り上がり、絶頂とともにバンドアンサンブルになだれ込む。驚異的BPMのハードコアパンク。

昼下がりのロッテリアで何を書いているんだ俺は。

セクシーなおねえさんはポールダンサーだった!会場に一本立てられたポールでぐるんぐるんしている。
さらにもう一人キャッツの衣装のような全身タイツに身を包んだポールダンサーも現れて一緒に踊る。
さらには獅子舞のようなモンスターも現れて舞う始末。この段落だけで二人と一匹(の中身はさらに二人)増えたぞ。見世物小屋を詰め込んだような情報量。



次は今日の目当ての一つであった、FUKAIPRODUCE羽衣という劇団の出番。
劇団がライブハウスでパフォーマンス?と疑問を持つのも不思議ではないけれど、彼女たちは「妙ージカル」を自称して表現している。
一曲にストーリーを持たせ、多人数でそれを歌いながら演じていくミュージカルスタイルに、独特の愛憎や皮肉を練り込んだのが「妙ージカル」なのだ。
ライブハウスでの公演も行ったりしており、楽曲単体での評価も非常に高い。

会場に並んだのは確か8人くらいだっただろうか。そもそも観客席という概念なんぞ無かったのだけど、より一層アーティストとの距離が近付き、会場半分ほど腰を下ろして鑑賞する。

30分の持ち時間で披露したのは二曲。
八百屋のお姉さんと売れない劇団員との恋物語を描いた「果物夜曲」では、八百屋役の深井順子が会場中を練り歩きながらお客さんに果物を売っていく。

ラストシーンで会場側のスタッフが涙ぐんでいた光景は今でも忘れられない。
他のスタッフが笑いながら彼の泣き顔を写真に納めていた。


ゾロ目の歌という愛称もある「サロメ対ヨカナーン」は、 男女の一生を文字通り一歳から辿っていく壮大な楽曲。
これはせっかくなので映像を挙げておこう。





羽衣の特徴でもある、ちょっと無理する音程で構成されるメロディ。決して上手いとは言い切れないのだけど、その張り上げた声にやさぐれや悔しさがそのまんまメロディに乗っかる感じがして、演劇としての表現を加速させる。



ここで少し休憩。館内を歩き回る。
やはりメインは展示会なので、色々観て回らねば。写真を少しだけ。

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ビルの床がくり抜かれてる!
中層はスクリーンになっていて映像が投影されております。


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新宿のジオラマのそこかしこに電気ネズミが。
Chim↑Pomクルーが新宿で捕まえたネズミのはく製らしい。うへー。




悪魔のしるしという方々のパフォーマンスを観る。

新宿の路上で百人斬りをするという触れ込みでエキストラを募集していたのだけれど、地上ステージ(TOCACOCAN前)には楽器を持つ人たちが。そして上裸で模造刀を持った男性が一人。

楽器隊をBGMにして、武器を持ったエキストラが一人ずつ現れては斬られていく。
時代劇でよく聞くズバッという音と共に死体が出来上がり、次から次へとエキストラが現れてはその武器のアクションも虚しく斬られて、死体の山が積み上がっていく。
それがコチラ。

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路上ですよ、これ。
もう意味分かんなくて最高でしょう。
最終的にはバンドメンバーも観客も虚しく全員斬られ、百人斬り達成!死体から拍手が巻き起こる。
やっぱり意味分かんなくて最高でしょう。なんかイイもんみたなという不思議な満足度。



次はVMO
関西のブルータル・オーケストラと名高いVampilliaの別ユニット。
先に書いておくけれど、個人的には彼らがベストアクトでした。

機材に混じって、見慣れない機械がちらほら。白塗りのメイクを施したメンバーの顔面もさることながら、メンバー名をカタカナで記したシュールなTシャツも含めて異様な雰囲気を醸し出していた。

「こんばんは!VMOです!」と、その見た目とは裏腹な朗らかさでVo.ダークスローンが話し出す。

「ところで皆様、恐怖ってご存知ですか?暗闇、痛み、幸せすら一周回って恐怖だったりしますよね?今日のほんの数分、皆さん全てを経験するでしょう」

照明が完全に落とされて真っ暗。
ダークスローンの持つライトと、VJの薄明りでしか周りを見ることが出来ない。

メンバー紹介があり張り詰めた静寂の後、壮絶な爆音!
シンフォニックメタルのようなピンと張り詰め洗練されたシンセのような音に轟音のノイズが混じる。インダストリアルなビートの連打があるけれどそれにノるというよりは、巨大な音の壁に打ちのめされる感じ。
長い年月を経た苔やアウトサイダーな落書きで彩られたような美しい壁。

見慣れない機械の正体はスモークとストロボだった。
ビカビカに光るスモークはステージだけでなく、会場中の動きをコマ送りにさせ、濃厚なスモークの中からモッシュピットでごっちゃごちゃになる人が見える。

見える。というのは嘘だ。真っ只中にいた。
つい好奇心で最前列で観ていたのだ。これはどう足掻いても逃れられない。
ヴォーカル二人がモッシュに飛び込んできたり、屈強な観客が暴れまわったり、それに混ざって会場中を見てみると、会場のキャパの半分以上はモッシュピットになっていたようだった。
後方数列と壁に沿った一列以外はほとんどぐっちゃぐちゃになっていた。
そんな狭い会場で、様々な人間がコマ送りで入り乱れている様はなんだか美しく神秘的にさえ見えた。



まさか全編上がるとは。



もうこのままNDGまで観てしまいたいので、ボロボロの体でフロアに残ることを決意。

次はミラクルひかる。観たいでしょそりゃ!

とんねるずのみなさん…の企画で披露された二億四千万の瞳モノマネメドレーが生で聴ける日が来るとは思わなんだ。しかもこんな場所で。


こういうの載せていいのだろうか。


「次は全国のイオンモールで会いましょう!」と去っていくカッコよさ。鉄板持ってますなぁ。



Have a Nice Day! 出番前、機材搬入の為一度会場内の入れ替えをするという。渋々会場外に出ると、いつから並んでいたのか長蛇の行列!

機材搬入終了後、入場開始するも直前で入場制限。会場から出る人がいればその分を入れてくれるそうなのだけど…結局誰も出ず。
新生ハバナイを拝むチャンスを逃してしまった。どんな音なんだ今。音源よりライブを観させてくれ。

真後ろにいたハバナイファンの方々の愚痴に参加させてもらって、仲間に入れてもらえた。人間の結束には共通の敵だなやはり。ありがたや。


NATURE DANGER GANGの出番前にようやく入場出来る。
入れ替え制のためハバナイを観ることが出来なかった人たちがNDGを前方で観ているような構図になる。「ここで発散するしかない!」という怨念が詰まったようなモッシュピットはそれはそれは激しく幸せが詰まっていたものだった。

狂気の入り混じる喧嘩に近い顔付きが多かったVMOのモッシュに比べて、NDGのモッシュピットはみんなニコニコしている。

VMOの時もそうだったのだけれど、モッシュに混ざる観客は単純に発散しているというよりも、何か発しているような印象を受けた。
観客全員がそのライブに合わせたモッシュピットを表現しているような、というか曲やパフォーマンスによってそうさせられているような。

人間の普段は見ることが出来ないような一面ばかりが見られるモッシュピットの真っ只中にいながら、「生きてるってなんだろう」という言葉が頭を過ぎる。







歌舞伎町に朝日が昇るのを眺める。
そこらでたむろしている汗だくの観客を見ながら、一緒に悪いことをやりきったような達成感。
並んでる最中に盗み聞きした話だけど、このイベントを観に初めて東京に来た地方の若者もいたみたい。
なんらかの価値観がぶち壊されて再構築されたに違いない。
この一夜を生き延びた。生きてる。スクラップ&ビルド!
人生であと何回こういう清々しい無茶が出来るのだろう。そして何回再構築出来るのだろうか。

 

帰り際、
「NDGで深いとか言い出したらさすがに末期だよねぇ」
と、仲良くなったハバナイファンが話していた。
嗚呼!俺もそう思うよ!

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