以前、O−NESTという渋谷のライブハウスで自主企画を行ったことがある。


そのときは「全肯定祝祭」と銘打って、人間の綺麗なところも汚いところも肯定してくれるようなアーティスト四組にお集まりいただいて開催したのだった。

その中で、ライブも見ることなく音源だけで即決して打診したバンドがいた。完全な一耳惚れ。
そして快諾していただき、ご出演してもらった方々。
それが今回ご紹介したい名古屋のバンド、鈴木実貴子ズという二人組であった。


その名の通り、鈴木実貴子(Vo/Gt)というシンガーソングライターと高橋(Dr/Cho)のツーピースバンド。

三曲入りのデモCDを三枚連続で制作しており、今回ご紹介したいのはその中からの一枚である『花粉症』


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彼女たちの代表曲と言ってもいいであろう、『外は雨ふり』という曲も収録されており、MVにもなっているので早速ここで。
この曲を聴いて出演を打診したのだった。こんな歌を演奏する人たちが良いライブをしないはずがない!
  

 
  
外は雨ふり 雨宿りみたいな人生だ 
なんにもない僕の なんでもない歌を 
なんにもない僕の なんにもない日常

彼女の歌はただの些細な日常を描いている。
売れないバンドマンの日常を赤裸々に描いた中から滲み出る悔しさだったり理不尽なムカつきは、たとえバンドをやっていなくとも共感できるものがあるのでは。
結局努力は等しく評価されないし、なんでアイツがというやつが大体上へ行ってしまう。
それじゃあなんで生きてるんだろう? 

 
バカな脳はいつだって 1ミクロずつ忘れてく
1ミクロずつ うすれてしまう 君の事
 
これは一曲目に収録されている『アンダーグラウンドでまってる』の歌詞。 

歌詞中に出てくる「君」はどうやら亡くなってしまっているようだ。 
その「君」へ寄せる歌詞から、ちょっとずつ死に近付いていく毎日が描かれているのが分かる。

彼女の歌詞には言葉の繰り返しが多い。
この曲もラストでひたすらタイトルを繰り返す。それは歌詞によって呪詛のようでもあり、祈りのようでもある。


消えない消えない消えない

こちらもこのサビの繰り返しが印象的な「消えない」という二曲目。
消しゴムでも水でも落ちない心の汚れがこびりついてしまった様をこの繰り返しで印象的に浮き出す。

夕ぐれ空みて死にたくなったけど
空はまだ来るなってぼくをこばむんだ 

やっぱりここでも死の匂い。

『アンダーグラウンドでまってる』でも歌われていることであるが、生きるということはそれはすなわち死に近付いていくということ。  
なんでもない日常でも、一歩ずつ一歩ずつ死に近付いていく。
そんな中やっぱり冒頭の疑問が頭をよぎる。 それじゃあなんで生きてるんだろう? 



最後の楽曲は冒頭でご紹介した「外は雨ふり」。 

人とはちがう感覚なんて誰かと一緒にきまっとるやろ
つまらん夢はさっさとすてて早くゼロに近付かんと

どんないいライブでも どんなスゴいうたでも
聞く気がないなら届かんし ヤル気がないなら歌うなよ 

生きていくことは素晴らしい!わけでもない。
でもゼロに近付かんとする彼女が選んだのは「死」ではなく「歌」だった。
歌うということに賭けたからこそ、つまらんライブをしている他のバンドマンに憤りを覚えて、それすらも歌に残す。 
そして歌を残すということは、生きた証を遺すこと。楽曲を完成させて歌い続けることにそもそもの意味があった。

音楽がぼくを助ける
そんなことはたまにしかないし

この一節を初めて聴いたときに心から頷いたのを覚えている。
「ほんとにしんどかったあの時、あの曲が無かったら…」みたいな経験はほとんどなく、「そういう経験をした人より、していない自分の方がこの音楽のことを理解出来ていないんじゃないか…」というような感動コンプレックスを抱いたこともある。

それよりも「うわーー!この曲めっちゃいいじゃん!!」というようなちょっとした気付きから自分の中で名曲になった音楽を、辛い出来事の後やしんどい仕事の前に聴いて救われるような経験はある。
音楽ってそんな程度でもいいんじゃないか?

歌うのはなんでもない日常で充分だ。華々しく飾られたものは多分誰かが歌ってくれているし、ただの日常を残していくことに意味がある。たとえそれが彼女の憤りでも。
そんな音楽に心動かされるやつもいるはずだ。僕とか。
だから彼女たちには生きていてほしいし、出来ることならば歌い続けてほしいと自分勝手ながら思ってしまう。


鈴木実貴子は自身の現状を冷静に理解してありのままに言葉を吐き出す。
その感情はどちらかと言えば美しいものではなく汚いほうになると思うのだけれど、それもいざ音楽として昇華されると自分の心をぶすぶすと刺してくるのだ。

そして汚い感情もそのまま肯定して音楽に乗せるということ、それを音源として録音すること(またはステージ上で声を上げて歌うこと)、それを自分の家へ持ち帰って(またはライブハウスのフロアで)自身の経験と照らし合わせながら聴くこと、そうやって彼女たちの音楽と自分の現実とひと続きになった瞬間、その音楽は自分にとってとても大切なものとなるのだ。
そうして大切なものとなった楽曲たちはいつでも再生ボタンを押せば自分の背中を押してくれる存在になる。

それが彼女たちの音楽を全肯定と言えた感覚の理由であり、彼女たちの音楽に惹かれる理由。



今回ご紹介したこのデモ「花粉症」はライブ会場限定での発売なので、ライブに行かないと買えないものなのであるが、そもそもこれをライブ会場で買うということに意義があるような気がしている。
ライブで聴いて、音源を持ち帰って、自分の家でまた聴く。この行程、 まさに今上に書いた一連の体験が出来る。

そして彼女たちはこのデモたちを踏み台にして新たなステップに上らんとしている。
7月1日、新音源「キミガヨ」 発売!
詳しい内容はまだ発表されてないのだけれど、この発売にあたって鈴木実貴子ズ初となるレコ発ツアーやイベントを予定しているとのこと。彼女たちのこれまでの集大成と言っても過言ではないだろう。

とにもかくにも彼女たちの魅力に気付く人が一人でも増えることを願って、最後は公開されたばかりのこのMVを。


 

アンダーグラウンドもね、いいところなんですよ。だってほら、いい曲じゃないっすか。これ。