日本のエレクトロニカがアツいのです。


serphの「luck」という楽曲がシャンプーのCMに抜擢されたところから他のCMからも引っ張りだこになっていたり、DE DE MOUSEがサンリオピューロランドに楽曲を書き下ろしたり、シーンの垣根を越えて浸透し始めている感じが傍から見てすごいなと。


soundcloudのブーム(いつまで続くのだろうか)もあり、アーティスト側はより気軽に音源を発表できるようになって、レーベル側もそれを受信しやすくなっているのが一因なのかもだけれど、流れどうこうよりも素敵な音楽が沢山聴ける機会に恵まれるのはリスナーとしては嬉しい限り。


今回はそんなエレクトロニカのアーティストの新譜をレコメンドさせていただこうかと。

いつものバンド系とはまた違った音楽ですが、こういうのもたまには。




fryadlus(フライアダルス)というアーティスト。
岐阜県出身、平成生まれの古谷佳大によるソロプロジェクト。

2013年10月に1stアルバム「Pocket Fantasy」をリリースしており、それをレコードショップのがっちりした展開に気になって聴き始めた。

生楽器を駆使して創り上げる、希望に満ち溢れたキラキラしたサウンドは、トイトロニカなんて呼ばれている。


トイという呼称よろしく「おもちゃ箱をひっくり返したような」という文句がこういう音楽には付きものだが、彼の音楽は「もしも大人がそのおもちゃを使って遊んでみたら」という感じ。
はてさて、それがどんなものかはまずその1stアルバムから一曲。





音数は多けれど、ケンカするわけでなくそれぞれがちゃんと曲を成り立たせるために無くてはならない要素。それらがきっちりと整理された中から、わくわくするような音像が浮き上がってくる。


そして、今回レコメンドさせていただきたいのは2015年8月に邂逅からリリースされた2ndアルバム「Musical EXPO.」



expo


どうですかコレ。

そもそもジャケ買い間違いなしでしょうコレ。


EXPO.は言わずもがな万国博覧会の意。
万博においては各国がそれぞれの文化や地域や技術に根付いたものを出展するパビリオンがあるけれど、彼はそれを一曲一曲に表現している。
ダイジェスト版があるので、まずはこちらからぜひ。







会場の入り口が見えてきて、賑やかさが遠くからじわじわ伝わってくるような、「おいでよ」

印象的なフルートのフレーズが、わくわくが抑えきれずに駆け出した子供のように聴こえた。わーすごいよ!クルッと振り返って、「おいでよ!」みたいな。
おうおう待て待てとかなんとか言いながら、その子供に追いつく自分も実は興奮が抑えられていないのだ。
もはやパパだ。


話が逸れまくった。



一転、アップテンポになる二曲目「blute beat」がその興奮を表しているみたい。
七曲目の「狩」同様、この攻撃的なサウンドは新境地で、RPGの戦闘曲のような高揚感。



RPGっぽさと言えば、四分音符で前進していくピアノとサンプリングで切り貼りしたような生楽器の対比が面白い「恵みの実」なんかは、大樹の下に広がる町のようなイメージ。雄大なピアノは街を見守る大樹、そこかしこからちらちらと聞こえてくる、フルートやアコースティックギターの音色が人や鳥のざわめきのような。



攻撃的なサウンドを新境地と書いたが、他にも「花馬」で用いられた和のテイストについてもまさに新境地。琴や太鼓、笛の音を駆使して祭囃子を繰り広げる。
同じく「月見」も和の雰囲気が隠し味のように潜むなか、ブレイクビーツのようにぎっしり詰め込まれたドラムトラックが暴れ回る。この辺りの差別化を聴き比べるのも面白いかも。




万博という言葉のイメージのまま、色んな国を表現したのかなとも思っていたのだけど、聴きなおしているうちに段々違う印象に聴こえてきた。
国とかそんな広い世界よりももっと細かな、地球のどこかで、いやもしかしたら架空の場所で、起こったちょっとした出来事を切り取ったような。
そのちょっとした出来事というのはただの日常のワンシーンだったり、はたまた類稀なる奇跡ような場面だったりするような気がする。




アルバムラストを飾る「エンドロール」は文字通り、大団円的スケールの広さで繰り広げられる一曲。


一つのモチーフを大切に使い続けながら曲が展開されていく様はクラシックのようであり、テンポをぐっと落として(クラシックの言葉を借りればリタルダンドして)、トランペットがモチーフをゆっくりと奏でるところから、ラストへ向かってテンポを戻すところはダイジェストにも入っているけれどそこまでの過程をぜひCDを買って聴いてみてほしいところ。本当に感動的。


『行進』の音なのか、『拍手』の音なのか。「エンドロール」の終わりにフェードアウトしていくその音は、『進んでいくこと』かはたまた『アンコールを求めている音』のようにも聴こえ、まだまだfryadlusが『続いていくこと』の意思表示に聴こえたのだった。




想像をどう膨らましても楽しいのが、インストの魅力でもある。と勝手に断言してしまうことにちょっと恐れがあるのだけど、好き勝手書かせていただいてしまった。

fryadlusが表現する万国博覧会は、そもそも国の範疇を超えて、彼自身が考える世界の美しさを12曲に凝縮したのでは、なんて考えたのであった。



それにしてもこの音源についてのレビューがほとんど無いぞ。
1stのレビューばっかり出てくるのがなんかアレ。必聴です。このアルバム。



最後に、あえてあーだこーだ書かなかった収録曲「夢中遊泳」がフル尺で公開されているので、彼の音世界に身をゆだねつつ、いろいろ想像を膨らましてみてはいかがだろうか。