2014年9月17日深夜、新宿にて贅沢なお誕生日会が開催された。


主催者兼主役は大森靖子
9月18日にメジャーデビューシングル「きゅるきゅる」を発売する彼女。その誕生日が同日だったのだ。

それを両方祝う、お誕生日会兼リリースパーティ。
しかも企画は彼女自身。これはすごいことにならないはずがない。


1410962800634





新宿ロフトのバーステージと、トークライブハウスであるロフトプラスワンを往来自由として、彼女の好きなアーティストばかりを集めた贅沢な一夜だった。


23時ちょうどにオープンしたロフトプラスワンは、当日券も含めてソールドアウトしただけあって、50分の開演まで人が途切れなかった。
イスがぎっしり並べられた会場内に、さらにスタンディングスペースを設けて、ぱんぱんの会場内。
自分自身彼女のライブに行ける機会がなかなか少なくなってしまったのだけれど、会場内には見知ったおじさんだったり、綺麗なお姉さんだったり、大学生カップルだったり、本当に様々な人種がいたのが印象的だった。
そんな様々な人種が揃いも揃って意識高いTシャツを着てたりして、とてもいい景色だった。




ロフトプラスワンに集った全員のお目当ては最初の出演者である、大森靖子
弾き語りでのカウントダウンライブである。

時間通りにステージに上った彼女は、ニコニコ生放送で配信されていることをいいことに、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)をいじるアッパーな発言をしたあと、「あ、ライブやる?」と言って、ギターを持つ。


「一曲目なにがいいですかー?」
と尋ねた結果、ファンのリクエストが「きゅるきゅる」であった。
出来るかなぁなんて言いながら弾き始めたのだったが、弾き語りで聴くこの曲はゴージャスなバンド編成とは全く異なる側面を持っていたようだった。
本人の気の赴くまま(または観客の動向を掴みながら)、ふわっと優しく、またはくっきり強く歌う。それは歌詞と密接にリンクしていて、フレーズによってやさぐれてたり、可愛かったりとキャラクターがコロコロ変わる。
「ミッドナイト清純異性交遊」を初めて弾き語りで聴いたときのような衝撃を思い出した。
全く別に感じる曲なれど、もちろんこれも大森靖子。楽曲が増えるたびに新たな一面や可能性がそこかしこに顔を覗かせる。
これも大森靖子か!これもか!という驚きの連続。


ちらちらと時計を見ながら「エンドレスダンス」を歌ったあと、凄まじい速さで「絶対彼女」を歌い始めた。
自分自身、歌詞が頭に入っているということもあるけれど、彼女の一言一言がちゃんと文字となって耳に入ってくる感覚があった。
普段は早口だという彼女が、滑舌の悪さを気にしているというような話も聞いたことがあるけれど、どの言葉も平等にかつ正確に届けられていたと思う。[マシンガンのような]という比喩はここで使うべきだなと感じた。
その比喩を正しく使うには、言葉を発する速さだけでなく、その言葉一つ一つがちゃんと銃弾でなくてはならない。
そもそも最近痛くも痒くもないようなマシンガンが多いんじゃないかな。
当たると痛いけど、痛覚で生きていることを実感するのと同じように、彼女の歌にそういった類の感覚を覚える人も少なくないのでは。


あまりの早口っぷりにカウントダウンを心配した観客たちが自身の手元の時計を見ているのがなんだか面白かった。
演奏終了がどうやら0時5秒前だったらしい。
最後の音を鳴らしながら口パクで「ごー、よん、さん、にー、いち」と指を折る。

そのままゼロまで何事もなくカウントし終わり、あまりにあっさりとしたカウントダウンに笑いながらも全力で拍手を送る観客たち。
特別テンションが上がってるわけでもないのかと思いきやそうでもなく、浜崎あゆみのモノマネをして一曲歌いきったりなんかもしていた。


完全に余談であるが、浜崎あゆみ「evolution」のモノマネの後に演奏した「デートはやめよう」が個人的にとっても良かった。

デートはやめよう

と、サビで伸びる声がすごく健康的ではつらつとしていて、少女とか老婆とか形容される彼女の歌声の新たな一面を聴けた気がする。



その後は何事もなかったかのように、矢継ぎ早に演奏が続けられた。
新宿のど真ん中で「新宿」を聴く特別さを大切にしたり、「夏果て」の殺伐とした歌詞を聴いて、もう秋だななんて
のんきに思ったり、「ハンドメイドホーム」を聴くたびに、どんな立派なステージでさえもいつだって彼女が手作りで積み上げたステージを観ているかのような感覚を覚える。

歌詞の良さとかメロディの良さとかを越えた先に、彼女自身のこれまでの経緯や背景を感じてしまっていた。
そういう彼女の情緒みたいなものが、楽曲が耳に流れてくるのと一緒にフラッシュバックして、ちょっと感慨深くなってしまったりもする。

弾き語りラストは「ミッドナイト清純異性交遊」
これまでしんと静まりかえっていた会場内が、手拍子なりケチャなりで盛り上がる。
それでも総じてなんだか会場内がおしとやかな雰囲気だったのは、やっぱり弾き語りの繊細さが織りなすものだったのだろう。






その後、この日唯一の接触機会として、チェキ会が予定されていたのだが、ロフトのバーステージにて別のお目当てがあったので、名残おしくも早々に離脱。




閑散としていた新宿ロフトのバーステージにぞろぞろと人が集まってくる。
バーステージ最初の出演者はトリプルファイヤー
個人的にもライブを見るのは久しぶりで、この機会は逃すまいという気運であった。


「えー…。大森さん…おめでとうございます」
と静かに話し出すVo.吉田。
すでに会場内がくすくすと笑いに包まれる。
彼の醸し出す空気感は本当になんなんだ。ずるい。佇まいでもう面白い。


今回は新曲が控えめのセットリストだったらしく、これまでの収録曲が多かったのだが、未収録の楽曲がとても印象的だった。


○○をした トラックに轢かれた


という歌詞がとにかく並べられるばかりの曲。唐突に次から次へとトラックに轢かれまくる。
接続詞がない。たったそれだけで意味合いに広がりが出る。
歌詞が深いだとかそういうことではなくて、単純に日本語の持つ面白さを噛みしめていた。
いつも歌詞を聴くたびに目からウロコな経験をしてしまう。日本語詞のあらゆる可能性を引っ提げていってほしいななんて勝手に思ってしまった。


とか考えながらも「カモン」での生き生きとした吉田に爆笑してしまう。
この振り幅がたまらなく魅力的。深く考えてしまうのが馬鹿馬鹿しくなってしまう。

タイトでソリッドな演奏が持ち味の彼らであるが、この日はドラムの音がとても気持ちよかった。
「次やったら殴る」のスネアがすごくいい音で、一音一音叩く様に文字通り目が離せなかった。


ラストは「ブラッドピット」

お父さんもなあ 若い頃は高田馬場のジョイディビジョンと言われてたんだよ

という後半の歌詞を、

お父さんもなあ  若い頃は大森靖子の企画に呼ばれてたんだよ

と、変えてみせたときの会場の盛り上がりといったら!今思い出してもグッとくる。
以前、大森靖子の「新宿」を、自身の楽曲「パチンコがやめられない」にちなんだ替え歌にして歌っていたのを思い出した。そう言えばあれも大森の渋谷クアトロワンマンのアフターパーティのステージだった。
なんだか粋だ。







続けてバーステージの出演者はガール椿
大森靖子とは映画「トムソーヤーとハックルベリーフィンは死んだ」でも共演しており、彼女自身も大好きなバンドとのこと。

「お誕生会の為に東京まで来たのは初めてです」
というMCから始まった。彼らは広島のバンドなので、わざわざこのイベントの為に東京まで来たという。なんという人徳。

前述した映画でのライブシーンがとにかくかっこよく、かねてから一度ライブを見てみたいと思っていたので、本当にいい機会だった。


ラップが軸となる楽曲もあれば、メロディを推す楽曲もある。
その両方の持ち味を詰め込んだような「反抗期のオルフェ」から始まった。
ごりごりのベースに乗っかって、多様なキメが光る。その合間で緩急つけて歌われるラップ。やっぱりカッコいいぞこの人たち。
歌が主役の瞬間、バンドサウンドが主役の瞬間、切り替えがくっきりしていて気持ちがいい。

映画の主題歌でもあった「近未来」も演奏された。
これまでの激しめの楽曲から一転、静かに、でも脈々と力強く演奏される。
聴けば聴くほどいいメロディだ。ふとしたときに思い出す、なんとなく心に留まっているようなさりげない存在感がある。







そして次のバンドは、大森靖子&THEピンクトカレフ
大森は本日2ステージ目。弾き語りカウントダウン→チェキ会→ピンクトカレフという怒濤のスケジュール。

一曲目「hayatochiri」のギターリフが鳴り響くころには、バーステージはパンパンだった。
トリプルファイヤーからの流れで二列目くらいに陣取っていたのだけれど、座席に座って聴いた弾き語りから蓄積したエネルギーを発散するような観客のノリがすさまじかった。


途中で、スペシャルゲストとして、Key.カメダタク(オワリカラ)をステージに招いたあと、「ミッドナイト清純異性交遊」
カメダがバックトラックを担当しており、まさに夢の競演といったところ。
あまりの盛り上がりに最前列の人はステージに身も乗り出して手をついてしまうほどだった。
なんとか起き上がった最前列の人たちの頭をぽんぽんしながら、「大丈夫?」とマイクを通さず声をかけていた彼女の姿がくっきりと目に焼き付いた。

ラストは「歌謡曲」
後半のGt.高野のソロが非常にメロディアスで、スーパーファミコンのゲーム音楽のようだった。刷りこみだろうか。でもすごい好きなメロディだったなぁ。
その泣きのメロディっぷりが気になって、DVDでソロを聴き返したりもしたのだけれど、どことなくスクウェアのRPG感がある。もう少し狭くするとクロノトリガー。なぜだろう。カエルのテーマっぽいのかなぁ。


「歌謡曲」最後の音がじゃーんと伸びている間に、Ba.大内ライダーが控え室に走る。
彼が持ってきたのは、ピンクトカレフから大森靖子への可愛らしいバースデイケーキだった。
大森がローソクを消した後一口かじる。美味しいー!と喜んだのも束の間、すぐにGt.小森を呼び出した。
ためらう小森の顔面にケーキをぶつける大森。
赤いストロベリーケーキで彩られた彼の顔がとにかくカッコよく、ピンクトカレフアーティスト写真の血塗られた顔のよう。「血塗り」に見えるけどその実「ストロベリークリーム」という有様は、自他共に認める「ロックンローラー」が「大森靖子」とバンドを組んでいるという象徴のようだった。


そうして彼女たちのライブは終わりを迎えたのだが、バーステージのトリがあとに控えているところで、まさかのアンコール。
ふたたびカメダがステージに登場し、6人編成で披露されたのは「きゅるきゅる」

音源を忠実に再現したイントロが始まると、観客のざわめきが聞こえた。まさかバンド編成で聴けるなんてね!



ググってでてくるとこなら どこへだっていけるよね!



ライブに来いという意味を痛感する、現場じゃないと感じられない思いや、興奮。
ググってでてこない景色ばかりの一夜だった。


ググっても出てこないところに連れてってよ
(ググって出てくるようなところじゃ 足りねーよ)
に聞こえてこないだろうか。

ググってでてくるようなとこはもう誰かに踏破されてるから新しい景色を探そうね。
つまりはやっぱりライブなのだ。






バーステージトリであるジョニー大蔵大臣に後ろ髪引かれつつも、最後はロフトプラスワンに移動して、キクイの戦艦というトークイベントへ。
ステージには首謀者であるHOMMヨのキクイと、来来来チームの張江、トリプルファイヤーの大垣というドラム三人組。


もうここでは書けないようなゲスい話ばっかりの内容だったのだけど、キクイが、
「彼女(大森)のライブを見たら自分がヤバくなっちゃうから一時期距離を置いてた(ライブを見ないようにしてた)」
というエピソードを話したのが、なんだか可愛らしくて印象的だった。
「ただのファンじゃん!」
と即座にツッコまれていたけれど、心からそのキクイの意見に同調できるような経験を受けた人も多かったのでは。
業界人とかバンドマンとか一般人とか関係なく、ライブとなれば、個人対大森靖子として一対一の感情のやり取りとなる。
そうして打ちのめされたなら結局一ファンと同じ感想になってしまうものじゃないのかな。


「まだ女子しか肯定してないですから」



アルバム「絶対少女」発売にあたってのトークライブの際に、さらりとそう話していたのをふと思い出した。
これにて晴れてメジャーデビューを果たし、大きな後ろ盾を得て、ますます規模を拡大させていくであろう彼女がこれから何を歌っていくのか。


超楽しい地獄はきっとググってもでてこない。
大森靖子と打って、スペースを打つと、彼女の規模に合わせて予測変換がどんどん増えていくように、ググってもでてこない景色をこれからも目撃したい。
溢れんばかりの期待を込めて。