11分に及ぶ長尺なのに、見ちゃった。聴いちゃった。


あっという間に過ぎていったこの映像体験に抱いた感想は、「なんだこれ!すごい!」だった。

その衝撃を受けた理由を一からほぐしていったら、記事に出来そうだったので、こうして書かせていただいている。
ちょっとでもこの感覚を共有できるような方がいらっしゃれば個人的に幸せである。


でも感覚のそれとは抜きに、生活や風景に溶け込むような素敵な音源なので、ぜひに。



蓮沼執太は2006年にアメリカのレーベルからデビューした作曲家で、環境音楽や電子音楽を軸とする自身のソロ音源の他に、バンド編成の蓮沼執太チーム、弦楽器や鍵盤打楽器を加えた蓮沼執太フィルと体制を自在に変化しながら、日本国内だけでなく、海外でも精力的に活動をしている。
と、そもそもこんなにつらつら書かなくても…な規模である。そもそもこの情報もwikipediaから引っ張ってきたものだった。
wikiに掲載されてるってステータス感あるね、なんだか。
ご存じの方からしたら、何をいまさら。な内容かも知れない。



phil11
蓮沼執太フィル



でも、とても素敵な楽曲と映像だった。
この映像とは全く別の話でPVだのMVだのの呼称の差が物議を醸すような動きもあるけれど、これは音楽の補助をとっくに越えた映像作品であると思う。
前置きはさておき、ここで肝心の映像を載せさせていただく。





 


この映像は、2014年1月に発売された蓮沼執太フィル「時が奏でる|Time plays – and so do we.」に収録されている、「ZERO CONCERTO」という楽曲のもの。


hsphil



アコースティックな演奏の織りなすちょっぴり不穏な音型。
ミニマルな演奏の中、少しずつ楽器が増えて音像が拡大していくさまに高揚する。やっていることはシンプルなのに、それが絡まり合うとこうも深くなるか。
その中でエッセンスのように添えられる歌は、決して主張するわけでなく、雲間からうっすら差す太陽光のようだ。
あくまでも大編成の中の楽器の一部みたいな使い方。


新宿駅にただずむメンバー。
その人数の多さ(総勢15人!)は、さながら短編オムニバス映画のようだ。一人一人に物語がある感じ。
その光景の横から挿入される小説が、この映像の肝。



その文章を読んでいるうちに、映像と文章がリンクしてどっちを注視していいか分からなくなった。
この感覚は経験したことがなかった。
映像と文章、その都度主役がころころ変わって、目のフォーカスが変化する。


小説に注視していたなか、最初にあれっと思わされたのは、メンバーが涙を流すシーン。
初めて映像に明確な変化が生まれるところである。
ふと気づくと、背景(だと思ってた映像)の白い光に紛れた文字は読めないし、もうその時点で流れている楽曲も含めてどれが主役か分からない。いや、どれも主役なのだ。



極めつけは、環ROYのラップシーン。
当て振りで歌われるこの部分はいわゆるよくあるPVの作りではあるのだけれど、この演奏にラップが入るギャップと、映像とのリンクに一発で心を持ってかれてしまった。

うわ、かっこいいこれ!と素直に感じたわけをなんでだろうと探っている内に小説と歌詞が明確にリンクしだして、もうあーだこーだ考えるのを止めて、ただただ目と耳の興味の赴くままにしているうちに曲は終わりを迎えていた。

この感覚が個人的にはとても新しかった。小説の読後感とも、音楽の後味とも違う余韻が体を満たしていた。
こういう映像作品は今まで出会ったことがなかったので、とっても衝撃的だったのだ。といってもガツンとくるイメージとは異なって、いわばすごくゆるやかな衝撃というところ。

シンプルかつ奥深さを湛えた演奏に沿うようなゆったりとした世界観。その中に秘めた熱量が、聴覚と視覚を頼りに、じんわりじんわりとみなぎってくるのを感じた。


最近何で涙を流しただろうか。いや、そもそも泣いたことなんてあっただろうか。
様々な人間が涙を流す姿を見てそんなことをふと思った。

一人一人共通して短いフレーズを演奏すれども、そのモチーフがばらばらなように、みんな同じ涙を流す行為をしながらも、その理由は様々なのだろう。
映像から受けた、それぞれの登場人物に物語があるような感覚が、音楽の構造と不思議なリンクをした。
大きな人混みの真っただ中だったり、夜の電車から見える家々の明かりだったりを見て、自分の人生には全く関係ないけれど、そこに人がいてその人の人生があるからこうして光景が出来上がっているという事実が、自分という存在を分からなくする感覚を思い出した。
東京の夜景は残業で出来てるんだよ、って一言とはまた違うかな。



フィルの体制に関して勉強不足で、知っているアーティストが参加していたことすら知らなかった。
なんてもったいない!
とにかく彼らの音源を買いあさるところから始めようと思う。

今度は、そうして手に入れた音源をiPodに携えて、自分だけのPVみたいな空間を体験できたら面白そうだなと、わくわくしている。

せっかくなので、もう一曲だけライブ映像を載せて終わりにしたい。