今回は井乃頭蓄音団というバンドの新譜をレコメンド!

本文中に弱者の味方だ!と書いたけれど、誰しも弱くなる瞬間があるだろう。
そんな時に聴くと、きっと「なんだか頑張れそう」な気になれるはず。
決して「頑張らせる」ようなわけではない優しさや暖かさがこの一枚にこめられていた。



おかえりロンサムジョージ



フォークとカントリーを融合した懐かしい雰囲気に、Vo.松尾よういちろうのやるせなくも共感してしまうような歌詞が合わさる彼らの音楽。
そのライブパフォーマンスも特徴的である。
松尾の予測のつかない動きで観客の笑いを誘いつつも、他のメンバーの演奏力や、楽曲のクオリティの高さ(メロディセンスやらアレンジやら)にぐっと惹かれてしまう。そんな振り幅で観客の感情を揺さぶるのが持ち味だと思う。


そういったライブの魅力が収録された「親が泣く LIVE」が彼らの前アルバムであった。ライブの魅力がダイレクトに伝える一枚であったので、このブログの開設当時に記事を書かせてもらった。




そんな井乃頭蓄音団の久々のフルアルバム「おかえりロンサムジョージ」。ロンサムジョージとは、ガラパゴス諸島にいた絶滅危惧種の亀の名前らしい。

前回のリリースが前述したライブ盤であった為、スタジオでレコーディングされた音源というのは2011年発売の1stアルバム「素直な自分」以来!



これまで、彼らの楽曲や歌詞からは人間のゲスい部分(褒め言葉)が目立つ印象を持っていたのだけれど、そんなものはかき消されてしまった。
なんというか、すごく綺麗で澄んでいる。純な感じ。



「けんちゃん」という楽曲にそんな純情さが込もっていると思う。
これはPVがあるのでぜひ。







本当にデリケートな「いじめ」とか「スクールカースト」のようなものを松尾流に歌い上げた一曲。
ただただ事実を並べているだけなのではあるが、そのことから歌詞にもあるような『どうしようも出来な』さが伝わってくるようだ。


お父さんのいない けんちゃんは けんちゃんは

のあとの空白の余韻がしんみりと胸に響く。


最初にゲスい部分という言葉を使ったけれど、考えようによってはこの曲もそういう部分はあると思う。
下ネタだったり、過剰な言動が歌詞に入っているのも過去にはあったけれど、そうした中からこういう楽曲が生まれるのも、そんな人間のゲスい部分を、究極にろ過したからなのでは。

松尾は一途な人だと思う。恋愛でもなんでも、追及する方向性で曲が化けるのかも知れない。それが歪んだ方向(もちろん褒め言葉)に進んだ楽曲が過去には多かったように感じた。

ただそこにシンガーソングライター松尾よういちろうの人となりが表れている。フィクションを交えた歌詞であっても、どこかから必ず漂ってくるこの人らしさ。
どこか情けなくても、共感せざるを得ない。人生どこかしらで体験したことのあるような感情を思い起こさせてくれるのが彼の歌詞の特徴である。

前もどこかで書いたような気がするのだけれど、「○○らしい」という思わされてしまうオリジナリティというのは本当に素晴らしいものであると思う。


そして、「少年」「遠い小さな町」「渋谷ステーション」「東京五輪」と、今作から初披露されるGt.ヒロヒサカトーの歌詞には情景描写が多く、抽象的でなんだか小説の冒頭のようだ。どれも爽やかで清々しい。
これがアルバムに並べられると、具体性の多い松尾の歌詞とのコントラストで常に新鮮な気分にさせてくれる。




サウンドで漂う懐かしさはやはりいのちくならでは。
スライドギターにアコースティックギター、ハーモニカなど、さらには楽曲によってはバンジョーやマンドリンまで用いた音色の組み合わせは異国感と時代性を感じさせる。
「この人は誰だろう」もそんな感じ。スピーディーなカントリー風の楽曲で、恋人だった人に対して次から次へと浮かんでくるぼんやりした思いが歌詞になったもの。
異国感のある音楽に、あまりにも身近な歌詞が合わさるミスマッチ具合も面白い。


サウンドと言えば、「アンゴルモア」についても書かねばなるまい。勝手に盛り上がってきた。






PVを続けて載せさせてもらったけれど、このうって変わって急にチープな感じに、「けんちゃん」のしっとり感はどこへやら…。
でもこのバカバカしさもまさにいのちくなのだ!

彼らの初期の名曲「デスコ」のオマージュを盛り込みながらふざけまくる。間奏のギター(?)ソロなんか最高だ。

一周回って、そういうバカバカしい部分まで追及する姿のカッコよさすら見えてくるから不思議なもんである。





全体を通してふと思ったことがある。


何かショッキングなこととか日常の辛い出来事があったとしよう。
よっぽど強い人だったらそれに立ち向かっていくのであろうが、ほとんどの人はやっぱりヘコむ瞬間があるはずだ。

たぶんあの頃はどうだっただとか、あの時ああしていればだとか考えて、ノスタルジックな回想に更けて、現実逃避してしまうかも知れない。
このアルバムがそんな状況とリンクするような気がした。

歌詞カードは、ジャケットの亀が旅をするイラストになっているのだが、目次は雷雨から始まっていて、そこから様々な道のりを経て、最終的には街へと辿り着くストーリーになっている。


一曲目の「昔はよかった」から、未来へのポジティブなメッセージを含んだラストの「東京五輪」に向かって行くストーリーが、現実逃避を断ち切って再び歩みなおすまでの道のりにも重なる。

そう考えると東京というのは現実のモチーフみたいだ。

いや、もちろん考えすぎなのは分かっているけれども、アルバムは終わって無音になって、街の雑踏が耳になだれ込んできたときに、きっとアルバムを聴く前よりも、どこか変わった自分がいるはず。
そうして様々な道のりを経て現実に帰ってきた姿は、「おかえりロンサムジョージ」というタイトルにもシンクロしないだろうか。







井乃頭蓄音団は弱者の味方だ。辛い気持ちを「がんばれよ!」と意気込ませるよりは、「辛いよな」と寄り添ってくれるような暖かみがある。
人懐っこい楽曲群を聴いているうちに、いつの間にか「がんばろうかな」という気持ちにさせてくれる。

「おかえりロンサムジョージ」には、応援ソングと呼ぶほど肩肘張らない、応援ソングばかりがあった。