ついに一般販売を開始した、大森靖子待望の1stアルバム。
ある意味刺激的なジャケットで目を引く一枚だけれど、もちろん中身も素晴らしい内容だったので、記事にした。

magi



大森靖子
に関しての記事はすっかり三回目。
ライブにも比較的多く足を運んでいて、すっかり入れ込んでしまっているのは否定できないが、今見逃せないアーティストの一人であることは間違いないと確信している。


そんな彼女の1stアルバムが販売された。
「魔法が使えないなら死にたい」


今作は大森靖子という人間の可能性を徹底的に掘り下げたような一枚に感じた。

これまでの作品のように、ギター一本で勝負する姿が収められた「夏果て」「秘めごと」に加え、グランドピアノを導入した「鮪漁船のうた」「歌謡曲」が大森靖子自身の可能性の広がりを見せている。
ミニアルバム「PINK」の一曲目「キラキラ」でもピアノの弾き語りが収録されていて、ポッドキャストラジオradioDTMの収録では、子供のころからピアノをやっていて、ギターは弾き語りをする際に初めて触れたということも話をしていた。同番組内でギターはかっこいいとも言っていたが、彼女のバンド形態「THEピンクトカレフ」でキーボードも使う姿があり、ピアノ弾き語りのステージや楽曲も増えていくならより楽しみが増える。


何より驚いたのは「新宿」。ライブではお馴染みの一曲が全く異なるアプローチで収録されていた。
あれ、アイドル?と思わせるシンプルな打ち込みで、キュートでポップなエレクトロに仕上がっていた。次第に音数が増していく作りでサウンドのテンションも高い。
そして歌われていることとのギャップがより一層この曲の持つ都会のリアルを引き立たせる。
私 あなたが好き 誰でもいいの
私 新宿が好き 汚れてもいいの


そして打ち込みはもう一曲、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」
ライブ盤で鬼気迫る録音をしていたが、こちらの録音ではまたうって変わってテンポを落としたユルめな雰囲気。
イントロで「愛してるよ」、後半で「音楽は魔法ではない」とそれぞれの言葉を散りばめて、曲が終わるころには二つの言葉が何かの象徴のようにリフレインして止まない。


アルバムのタイトルでもあり、ラストを飾る「魔法が使えないなら」
つまらん夜はもうやめた
最後の歌詞が聴き取れなくなるほどのあらゆる音を詰め込んだノイズで幕を下ろすこの作品。
このアルバムに登場した全ての楽器が使われているような破壊音でつまらん夜との決別を果たそうとするわけであるが、この破壊音のあと、耳に入ってきた現実の音も含めて、一曲であるのではとふと考えた。
つまらん朝でもつまらん夜でも、この曲を聴き終わったあと、アルバムが終わったあと、現実に何を思うか。





ピアノにギター、打ち込み、そして歌声。
文字通り変幻自在の魅力を持つ彼女。
「ハンドメイドホーム」「あたし天使の堪忍袋」なんかは続けざまの二曲で、どちらもギターがしっかりとかき鳴らされる曲ではあるが、歌声は全く別モノのようだ。
可能性を徹底的に掘り下げた、と書いたが、それと同時に、まだ彼女を聴いたことのない人へのフックとなるよう、彼女自身を徹底的に演出した一枚とも言える。ジャケットもそう。楽曲を聴いてもらうための演出に過ぎない。

実際にライブを見ていて、だんだんとパフォーマンスのレベルが上がっているように感じている。
歌声の使い分けや、マイクとの使い方、観客との距離感、楽曲の歌い方、テンポ、セットリスト。
大森靖子は大森靖子を実に器用に演出している。楽曲の雰囲気がより洗練されれば、自然とライブの雰囲気が研ぎ澄まされていく。ステージに立つ彼女の姿を見て、場の雰囲気が変わる瞬間に、自分はとても心を惹かれる。
そんなリスナーを惹きつけるステージ上の演出が、音源になっても楽曲のそこかしこに存在する。
ライブがヤバいとだけ言わせない、音源もヤバいという意見が出てくるのでは。



隣のババアは暇で風呂ばっかはいってるから浴槽で死んだ
私は歌をうたっている どういうことかわかるだろ
ノスタルジーに中指立ててファンタジーを始めただけさ


「音楽を捨てよ、そして音楽へ」
で受動と能動に関してこう言い放った彼女。

彼女の描く音楽はこのアルバムでまた一段と広がっている。
少女が自身の等身大の姿やそこからのちょっとした強がりを歌う印象が強かったが、世界観が少しずつ変わっているようにも感じる。きっとこれからも女のコのフィルターを通して、綺麗なものも醜いものもひっくるめてファンタジーにしていくのであろう。