今回は、以前ミニアルバム「PINK」を発売した際に記事を書いた大森靖子という歌手のライブ盤。

同じアーティストを取り上げるのを少し避けていた面があったけれど、ライブを見たら書きたくなったんだからしょうがない。


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このたび3月にフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」の発売を決定し、5月には渋谷クラブクアトロで単身のワンマンライブが控えている彼女。まさに伸び盛りとも言える。



2月13日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEという大きめのライブハウスでの演奏ということで久しぶりにライブを見てきた。
具体的に流れを書き連ねたりするのは趣味ではないので、印象的なことをざっくり記す。


歌モノの女性SSWを集めていたような企画で、ゆったりとリラックスした雰囲気。そんな環境でどう演奏するかが非常に気になった。

比較的高めの天井、お客さんもまばらで、いろいろな意味で広さのあるステージに立つ彼女はまさしく一人ぼっちであったが、歌い始めると、その伸びやかに響く声に、どんな場所で歌おうと関係ないようなタフさが伺えた。
実際、「歌が上手い選手権ではないですから」というようなMCをぽつりとしていたのが印象的。
そうそう、音楽を聴きにきたんだった。

広いステージは彼女の味方であった。狭いライブハウスでは味わえない残響があり、アコースティックギターや歌声の最後の一音が消えていく瞬間を自然と体感できた。
途中、マイクを避け、ギターもアンプを通さず生音にして歌う姿は、マンツーマンで歌われているような迫力と優しさが。
「コーヒータイム」のラストの口笛が、マイク無しでびっくりするほど突き抜けて聴こえたのが印象的。

表情と声。これがライブでの彼女の魅力であると思う。
歌によって色んな主人公が現れ、それを歌とギターで体現する彼女は演じているようにコロコロと印象を変える。さっきまで可愛かった彼女に睨み付けられたりもするし、空っぽの幸福感というか、嬉しがっている姿が悲しく見えたり、単純な喜怒哀楽では片付けられない感情の入り混じったような何かも垣間見えたりする。



大森靖子はライブがやばい。

webやらなにやらでよく見る文句であり、実際に事実でもあると思う。

そんな声をどこまで反映したのかは分からないが、今回発売されているライブ盤、「2012Live音楽を捨てよ、そして音楽へ。」は、そういった声にとてもよい形で答えたことになったのでは。
上記した表情と声に関しても、前作「PINK」とはまた違った面で、ワンフレーズの中でも展開される感情の起伏が、そのまま歌声になって表れている。前作と聞き比べをしてみるのも面白いかもしれない。
より豊かに、よりオーバーに表現されているような印象を受けた。これもライブならではの魅力。実際のライブへの引力もあるのでは。


定番曲に加え、ちょっとホラーな雰囲気の漂う歌詞とメロディーの美麗な「夏果て」や、中島みゆきを思わせる昭和歌謡テイストの「あたし天使の堪忍袋」など、新録曲が並ぶが、ハイライトはやはり表題曲でもある、「音楽を捨てよ、そして音楽へ。」であろうか。
今の音楽事情を真っ向から否定する、カウンターカルチャーとしての大森流ヒップホップ。脱法ハーブやら握手会やら刺激的な言葉が並ぶなか、
音楽は魔法ではない
のリフレインが一人ひとりに音楽のあり方を問いかける。

でも音楽は
と彼女が歌う。
自分自身にもあてはめて、自分の音楽観ってどんなんなんだろうかと、まさに考えている途中。
恥ずかしながら、まだ答えは見つからない。


全力でやって5年かかったし やっと始まったとこなんだ

この歌詞が現状での彼女を物語っている。

伸び盛りと冒頭で簡単に書いてしまったが、ここまで認知されるのに彼女がどんな努力を重ねてきたか。そしてさらに高みを目指しているのが伺える。やりたいことや表現したい音楽がきっとたくさんあるのだろう。
これからどんな方向に歩んでいくかは定かではないが、これからも音楽とのまっすぐな付き合い方を提唱してくれるのではないだろうか。



先日アップされた、この曲のライブ動画も素晴らしいので、よかったら参考までに。