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激情派とはよく言ったもので、最初の印象から彼女を表現するにはうってつけの言葉である。
ただ、彼女の魅力はきっとそこだけではない。

大森靖子(おおもりせいこ)は高円寺を中心に活動する女性シンガーソングライター。
ギターをこれでもかとかき鳴らすスタイルや、狂気すら感じる歌唱っぷりから、前記の通り激情派ガーリーシンガーなんて称されるほど。

2012年4月にアルバム「PINK」をリリース。女性、というか少女の擦れた感情表現が豊かで、幸せだったり憎しみだったり一曲一曲でころころ変わる印象を受け止めているうちに、大森靖子という人物がリアルに浮き出てくるようなアルバムであった。



今回はそのアルバムから「パーティドレス」という曲を挙げる。




初見の感想では、変幻自在なテンポを見て、テンポに縛られるのもばかばかしいよなぁなんて思ってしまった。
弾き語りというスタイルは、自分の音楽であり世界であり、自分の気持ちいいように弾けばいいし、歌えばいいのだ。当たり前のようでなかなか常人では出来ないようなそこを、何食わぬ顔で飛び越えてしまっているのも彼女の武器の一つだと思う。

一方で、狂気や生理的嫌悪感やら独特の感情表現にやられて、好き嫌いの分かれる意見を聞くが、どうのこうの無しにして、注目すべきは彼女のメロディセンス。なんというか物悲しい。歌詞の力だけではきっとこの雰囲気は醸し出せないのでは。

冷めた目でひどく現実的なところを見ているような殺伐とした歌詞と、その雰囲気に反するかのような美しくポップ
なメロディの対比によって、言葉で表現できない部分を補完しているような印象。
腐った大人や腐っている自分への諦めにも似た悲しみを感じた。諦めには一種の清々しさが伴うが、明るいメロディからそれがにじみ出ているような気がした。


サウンドスケープの新たな境地。風景描写ではなく、一人の少女だけを描いていた。歌詞だけでなく、メロディも伴って楽曲の雰囲気に深みを出しているところが魅力的なのだ。アルバム「PINK」には一曲一曲違ったテンポで違ったコードで違った性格を持つ少女が現れる。

大森靖子自身も美術が好きだというが、音楽と人物描写が合わさったようなこれが偶然じゃなければ面白い。