CDの魅力を超えられないアーティストが多い。
のっけから変な意見で申し訳ない。でも事実だと思う。

有名無名問わず、色んな人の色んなライブを見てきて、「CDの再現にいっぱいいっぱいだなぁ」という感想を持ってしまったことがたくさんあった。
いくらでも年月をかけられるし、何テイクも録ることができ、その中から繋ぎ合わせた集大成がCDであるのに対して、一発勝負のライブは、ミスがありズレがありとリスクが多い。ハコによって聴こえ方が変わるのも考えもの。
その中から一種の評価基準として、「ライブがいい」という意見が生まれるのは、個人的にはアーティストへの大賛辞であると思う。

そして、世に溢れるライブ盤というのは、そう考えるとなんだか矛盾しているようであり、よっぽど自分達の音楽に自信が無いと出せるものではないと思っている。



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下北沢を中心に活動している五人組のインディーズバンド、「井乃頭蓄音団」からライブ盤が出た。
ボーナストラックなどでライブ音源が入るのは数あれど、インディーズのライブ盤ってのはそういえばなかなか新鮮だったかも知れない。
ライブ映像を収めたDVDとCDとセットで、いのちくのライブを余すところなくお見せするクオリティ。
なんといっても最大の魅力はDVDの副音声。「メンバーによるLIVE反省会」。
映画ではたまに見る副音声解説。これをライブ映像に対してやろうというのだ。
なんというバンドのゆるさと企画力。


このバンドはライブがいい。これは言ってもいい。
フォークをベースに構築された、ちょっと懐かしい、ダサい、情けない、下品、けどかっこいい音楽。
ほとんどの曲の作詞作曲を担当する、ボーカル・ギターの松尾よういちろう独自の世界観に一目でのまれてしまう。
そしてそれを支える確かな技術を誇るツインギター、ベース、ドラム。

その雰囲気がよく出ている楽曲が↓

井乃頭蓄音団 「親が泣く」


さらに今ではもはや恒例となっているお客さんから松尾へのまつおコール。ファンとの愛情が感じられる一面でもある。
そして特筆すべきは独特なライブパフォーマンス。失神寸前の変顔、鬼気迫る演技、ぐだぐだなMC、曲中の振り付け。
これはライブ盤販売するのも頷ける。

個人的には「公衆便所で」がベストアクト。音声解説でもメンバーが述べているが、照明との相性のよさがひときわ際立っていて、この曲こんなかっこよかったっけ?とあほみたいな心境になってしまった。
ジャケットにもなっているお決まりのキメも言わずもがな。分かっていても笑ってしまう、おかしな威力がそこに詰まっている。
肝心の副音声は、少しの裏話と残りほとんどがメンバーのほがらかな関係性を感じる雑談。より井乃頭蓄音団の魅力が深まるDVDとなっている。


新曲がたまっていくなか、このライブ盤をリリースするところになんらかの戦略的なにおいも感じたが、個人的にはめちゃくちゃ楽しませてもらったので、のんびりと彼らのこれからを見守っていきたい。
「息子の恋」すごい好きなんだけれども、封印してますな、最近。


「特に反省することないんだけどなぁ…。」

メンバーの一人が解説の最中ぼそっと言ったこの言葉が、このライブ盤の素晴らしさを表している。